評論家入門

小谷野敦『評論家入門 清貧でもいいから物書きになりたい人に』、平凡社新書、2004

小谷野「あっちゃん」の「物書きになりたい人のための本」。小谷野は学者だから、ある意味学問への入門にもなっているのだが、これは「大学で教職を得たい人」向けではなくて、小谷野同様、「フリーの物書き」(特に文学、社会評論)への道を説明しているので、そういう本である。

最初のところは「評論」という分野の明確な定義ができないということからはじまる。なるほど、「学問」「小説」ならある程度定義ができるかもしれないが、「文学評論」が何を指しているかというと、けっこうあいまいである。それからよい評論が「学問8割、それに「売れる」ということ」だという話になる。けっこう納得する。

一番おもしろい部分は、小谷野自身を例にとった、評論家のできるまで、の話。半分は学者修行でもあるのだが、固定収入のある大学の教職を捨ててわざわざフリーの評論家になっている人が書いているので、実際おもしろい。というか、やはり大変である。学問的な評論を指向しているわけだから、とにかく上のレベルの学者と同じ労力でかつ収入は明らかに低い。しかも、「名声」が得られるかというと、そう簡単にはいかない。とにかく読むのが好き、書くのが好きで、そのための努力をいとわないという人でないとつとまらない。まあ小谷野は二度目の結婚もして、安定した生活を送る人になっているわけだが、そこにいくまでが大変だ。

そしておかしなことをいっているところはあいかわらず。「匿名の批判は卑怯だ」という説もそうだし(なぜ小谷野は匿名の批判を無視できないのか?)、まあ自分でも「獰猛」だと認めているわけだから、かわいいといえばかわいい。それも含めておもしろい本。