スクリーンの中の戦争

『スクリーンの中の戦争』坂本多加雄、文春新書、2005

坂本多加雄の映画評論本。最初に取り上げているのが、「パールハーバー」と「トラ!トラ!トラ!」で、当然ながら「パールハーバー」は酷評されている。それにしてもなんでわざわざ「パールハーバー」なんか取り上げるのか?誰が見たってつまらないのに・・・、と思ったが、その後で取り上げている映画には、そんなにつまらないものはない。どうも著者は「パールハーバー」が若い人に受けているという話をどこかで聞いて、そういうことをたしなめる意図で書いたようだ。

本の表題には「戦争」という言葉が出てくるが、戦争と関連のある映画ばかりが取り上げられているわけではなく、戦争と関連づけられているわけではないものもある。「タクシードライバー」とか「東京物語」とか、戦争に関係あるの?と思って読んでみたが、別にそういう話はなかった(「タクシードライバー」はファシズムに関連づけられているので、強いて言えばそうなるが)。

内容は、とてもおもしろかった。素人の余技の域ではなく、相当の数の映画を注意深く見ていないと書けない評である。著者は思想史家だから、そちらのほうの該博な知識も十分に内容に反映されている。「太陽の帝国」は、個人的にはぜんぜんおもしろくなかったし、スピルバーグの映画では凡作だと思っていたが、この本の評を読んでもう一度ちゃんと見る気になった。「地獄の黙示録」の解釈も説得的。

著者が生きていれば、この分野でいろいろと面白い本が書けたのに、もったいないことだ。この本は弟子が遺稿をまとめて出したものらしい。