東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜

『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』リリー・フランキー、扶桑社、2005

図書館の棚にあったのを見つけて読んでみることに。映画はかなりベタベタだったので、こっちはどうかと思ったが、確かにベタベタではあるが、本はかなりよく書けている。というか、映画のほうでは、細かいエピソードがいろいろ略されているほか、話をきれいにつくりすぎていて、「漂白」されたおはなしになってしまっている。この本のテイストは映画ではかなりそぎ落とされてしまっているように思う。基本的にこの話は、筑豊での子供時代とか、著者の生活感の積み重ねでできているようなもので、そこを取ってしまうとただの泣かせ狙いの話みたいになってしまうだろう。

まあ内容は、亡くなった母親への手紙とでもいうようなもの。小説ではあるのだろうが、それよりもエッセイというか、昔のことを思い出して日記を付け直しているような感じだろうか。読みやすいが、出てくるエピソードがどれも興味深く、全巻まったくあきさせない。著者の筆力もあるが、多くは著者のこれまでの生活そのもののおもしろさから来ているのだろう。最後の母親の病気と死の部分はごちゃごちゃ言うようなところではないが、自分のことに置きなおしてみると考えさせられる。

手元の版は発売後10ヶ月で26刷。公称200万部といっているが、おそろしいことである。