人民解放軍は何を考えているのか

人民解放軍は何を考えているのか 軍事ドラマで分析する中国』本田善彦、光文社新書、2008

中国のCCTVで放送されている「軍事もの」ドラマを通じて、人民解放軍の現状と中国人の自国意識を考えようという本。著者は台湾在住のジャーナリスト。

日本とは違うからあたりまえなのだが、中国で軍隊を主役にしたドラマ(抗日戦や国共内戦に関するものを除いても)がかなり多く放送されていて、それなりに人気があることはまったく知らなかった。著者は軍事専門の人ではないが、ドラマとあわせて、新聞その他のメディアや中国首脳部の発言もそれなりにフォローしているので、あまり偏った分析にはなっていないと思う。

結論的には、人民解放軍は、「近代化をめざしてはいるが、まだそれを達成できない状態にあり、しかもそれに伴うさまざまな問題を抱えた組織」だということである。台湾に対する戦争については、可能性が高い直接的な問題として真剣に対処しようとしているが、これでは他の問題にはあまり手が回らないだろう。もちろん、台湾に対して圧倒的に優勢な軍隊を建設できたとすれば、それは中国が東シナ海を制圧でき、海を越えて軍隊を投射できる能力を持つことを意味しているので、そのことを軽く見るべきではないが。

しかし、解放軍内部の問題(兵員の募集、除隊後の再就職、遅れた技術や装備)については、比較的言及されることが少ない問題なので参考になった。また、中国指導部がナショナリズム民主化の微妙なバランスをとろうとしている状況についても、うまく描写されている。それなりにおもしろい本。