知識ゼロからの西洋絵画入門

『知識ゼロからの西洋絵画入門』山田五郎幻冬舎、2008

山田五郎による西洋絵画鑑賞の「参考書」。ちゃんと手をかけて作られていて、まったく絵を見たことがない人から、多少絵が好きな人までの範囲の読者はけっこう楽しめると思う。

体裁は、ボッティチェリからダリまで、34人の画家を取り上げて一人ずつに4頁を割り当てる。最初の2頁はその画家の一枚の絵を取り上げていて、左頁に図版、右頁にその絵と画家についての簡単な解説がある。次の2頁の左頁は画家の簡単な年譜、流派、主要なモチーフ、尊敬した芸術家、家族・女性関係(取り上げている画家は全部男性)についてのコメントがあり、右頁には前頁の図版の一部をピックアップして拡大し、その絵の見所が解説されている。この画家個人と絵を取り上げるメインページに加えて、最初に西洋絵画の大まかな流れを説明するコーナーがあり、それぞれの時代の冒頭にさらに各時代の流派とその関係が説明される。

画家は西洋美術史の巨匠たちがひととおり取り上げられているが、絵の選択は著者の好みがかなり入っているようだ。ルノワールだと印象主義や後期の絵ではなくて、その中間にある「イレーヌ・カーン・ダンヴェールの肖像」だったりする。まあ日本人好みだけどね。

それぞれの絵の解説にも著者の見方が強く入っているが、これがさすが山田五郎という文章で、絵のどこに注目するかを的確に示していて、しかも非常に読みやすい。画家個人の履歴や特徴を説明する頁では、その画家の人間的な側面についていろんなことが書いてある。まあだいたいは変人とか、女たらしとか、権力志向が強いとか、あんまりいいことは書いていないが、絵画史上の巨匠になれるような人物がふつうの善人だったら、そっちのほうが驚くし、変な人物であればあるほど人物そのものにも興味がわくから、そっちのほうがいいのである。

自分みたいな素人で絵が好きな人を狙って書かれたような本で、ほんとうに面白く読めた。高校生以上なら、十分楽しめるように書かれている。著者のかゆいところに手が届くような配慮と、編集者の力量を感じる。