ヴィルヘルム・ハンマースホイ展 静かなる詩情

ヴィルヘルム・ハンマースホイ展 ─静かなる詩情─」、国立西洋美術館

これは数週間前にNHK教育の「日曜美術館」でやっていたのを見てちょっと気になっていたので見に行った。全体の印象ということでは、テレビで見た時よりはるかに暗い。風景画、肖像画、室内(人物があるものとないものとがある)画が中心だが、まず風景画。ほとんどが暗くどんよりと曇った空で、曇りか霧雨のような湿った空気の中で、建物やら何やらがある。人物はまったく描かれておらず、動物もいない。植物すら、あまり生気がない。

肖像画。これが輪をかけて暗い。肌の色に赤みがなく、ほとんど死体みたいな色。特に画家の妻の肖像は強烈で、ほとんど幽霊みたいなお婆さんの肖像のよう。当時、妻は38歳だったそうだが、出来上がった肖像画を見て何と言ったのだろうか。妻、妹、義姉の三人が描かれた肖像では、三人がばらばらな方向を向いていて、会話が感じられない。それぞれ孤独な三人がたまたま同じ写真に写っているような絵。

室内画。これがハンマースホイの創作の中心のようだが、家具や装飾がほとんどない部屋の中が執拗に描かれている。人物はいるものといないものがあるが、いても後ろを向いていて表情は見えなかったりする。わざとドアノブが描かれていなかったり、ピアノの脚が二本しか描かれていなかったり、現実の風景が変えられていて、奇妙に現実感のない、具体的なものを描いているのに、ものや人の具体性に欠けているような、そういう絵。

見ている方がうつ状態に引きずり込まれそうな絵だが、実際、画家本人が鬱状態だったのだろうと思う(展覧会の解説では、はっきりそういってはいないが)。絵を描き始めたころから、似たような感じの画風が一貫しているので、性格的にそういう人だったのだろう。副題は「静かなる詩情」となっているが、英語では"poetry of silence"となっているので、これはそのまま「沈黙の詩」と訳すべきではないかと思う。生前、母国のデンマークではあまり人気は出なかったそうだが、それはそうだろう。日本の観客はどう思っているのだろう。自分はこういう鬱な絵は嫌いではないけど、自分自身がかなり鬱の底にいると、さらに深みに引きずりこまれそうな気もする。