天璋院篤姫

天璋院篤姫』上・下、宮尾登美子講談社1984

大河ドラマも見ているのだが、いろいろと不満も多く、なにより宮尾登美子節じゃないよーと思ってこちらのほうを読んでみた。まあ思っていたとおり、基本的なエピソードは共通でも味付けはまるっきり違うので、大河ドラマのほうは小説とはまったく独立している作品だった。大河ドラマについては終わってから書くことにして、小説なのだが、あいかわらずの宮尾節とはいえ、非常におもしろい。

特にこれが書かれた頃は和宮のほうがよっぽど有名人で、天璋院はイジワルな姑イメージが定着していたので、それに一石を投じたかったという巻末の著者インタビューにはなっとく。いや、たしかに意固地でちょっとイジワルなのだが、島津から大奥に放り込まれて、本人も苦労苦労の連続だったのだ。イジワル合戦くらいは当然(本作では、和宮も相当イケズな人である)。

また、江戸城を明け渡した後の余生が、威厳とプライドを感じさせる描き方で、なかなかによい。徳川慶喜に対する憎しみも、この人の強烈な個性の一部だと思えば、すなおに腑に落ちる。なんといっても大奥ものなのだから、ちゃんとドロドロ要素が入っていないと小説としておもしろくないし、逆に表の政治向きのことに大奥の人がやたら介入するような話はおかしい。1985年のテレ朝ドラマ版(こちらでは天璋院役は佐久間良子)は、そのへんをうまく作っていたのだろうか。