早稲田と慶応

『早稲田と慶応 名門私大の栄光と影』橘木俊詔講談社現代新書、2008

格差問題で精力的に実証研究や論考を発表している著者による、早稲田と慶応についての考察。著者の関心は主に、「戦前に帝大に明らかに差をつけられていた早稲田と慶応が、どのようにしてその差を縮め、場合によっては追い越すまでに至ったのか、という点にある。ということで、主に早稲田と慶応という「学歴ブランドの価値向上」が関心事なので、他の点はそれほど深く突っ込まれていない。例えば、早稲田と慶応出身者が大手企業の社長、役員になっている数や割合は取り上げてられているが、「平均的に」両校の出身者がどういう企業に就職して、どれだけの年収を得ているかというようなことはわからない(まあデータを手に入れるのが難しいので無理なのだろうが)。また、早稲田、慶応の学生を持つ親の収入や職業のデータは1965年のものしかない(これもデータの入手が難しいのだろう)。

早稲田、慶応の成功物語の理由は、結局建学精神→校風→入学志願者の人気→社会からの高い評価ということで説明されていて、まあそれはそうだろうと思うが、あまり斬新な議論はされていない。また教育機関としての評価(単なるスクリーニングではなく、入学後の教育がどれだけ学生の価値を高めているかについての評価)もあまりきちんとはされていない(遠回しにそれほど高くない評価をしていることはうかがえる)。教育はともかく、研究では大したことはないという評価も、ま、そりゃそうでしょうという感じがする。

早稲田と慶応について、一般に言われていることをある程度資料の裏付けをもってきちんとまとめているとは言えるが、著者の他の著作と比べるとツッコミがやや甘いような気がする。それに、両校の、平均的な学生が他の旧帝大、私大の学生とどれほどの違いがあるのかという点に、もうちょっとていねいに触れて欲しかった。