地ひらく―石原莞爾と昭和の夢

『地ひらく―石原莞爾と昭和の夢』福田和也文藝春秋、2001

石原莞爾の評伝、のはずだが、著者があとがきで言うようにふつうの評伝ではなく、「石原莞爾を通じて見た昭和史」とでもいうような本。満州事変から太平洋戦争に至る日本のたどった道が、石原莞爾の事績がところどころ現れる形で描かれている。石原莞爾個人に関心のある人にとっては、やや物足りない感じがするかもしれない(例えば、石原の著作についてはそれほど突っ込んだ記述がない)。また、歴史書というわけでもない。人物評論でも歴史評論でもあり、そのどちらとしても中途半端な感じがする微妙な本。

しかし700ページの大著でありながら、一気に読ませる筆力がある。ポイントは、日本の戦争への道についての、著者自身の解釈が随所に挿入されていて、それを楽しみながら読めるところだろう。幣原喜重郎民政党系の国際協調路線への批判、米内光政ら海軍が支那事変拡大に果たした役割の批判、アメリカの対日政策への批判ほか、ナショナリスト福田和也の面目躍如という印象。歴史叙述は強引な感じもするが、非常に面白く、極東だけでなくヨーロッパ戦役の状況もカバーしていて、この分野にあまり知識のない人に対して、太平洋戦争についての、歴史教科書とは違ったイメージを提供しようとする著者の意欲が感じられる。

石原莞爾その人については、この人はアイディアはあっても、それを陸軍内部で実現させていく政治力というか協調性や包容力に欠けていて、日本社会では異端児で終わらざるを得ない人という感想をもつ。永田鉄山が生きていれば、その懐刀として活躍のしようがあったかも知れない。しかし東條英機が出世する世界では石原の活躍の場はなかっただろう。異能異才の人である。