ドリス、94歳の選挙戦

「ドリス、94歳の選挙戦」、ドリス・ハドックほか出演、マルロ・ポラス監督、アメリカ、2007

94歳の婆さんがニューハンプシャー州選出の連邦上院議員選挙(2004年)に立候補した顛末を描くドキュメンタリー。もとはHBOで流れたものが、シネフィルイマジカで放送された。原題は、"Run, Granny, run"。この婆さん=ドリス・ハドックのあだ名が、"Granny D."(D婆さん)なのである。

85歳の時に夫や親友が死んでいったのを見て、「何かしなければ。ここはわたしの国だ」と思ったからだというから、黒澤明の「生きる」みたいだなーと思ったが、もちろんこれは現実なのであんな美しい話はない。しかし、この婆さんのエネルギーはただごとではない。1999年、89歳の時に当時テキサス州知事だったJ.W.ブッシュの資金集めを非難するキャンペーンで大陸を歩いて横断し、2004年の選挙で民主党の候補が勝ち目がないとして降りたために、その後釜で上院選の候補になったのだ。そうでもなければただの素人が連邦上院選には出られないだろう。

相手は共和党のジャド・グレッグで、選挙は鉄板。勝つ見込みはないので、地域の民主党は金を出さないし、ろくに支援もしない。なのでCMも打てない。しかしドリス本人は「出ることに意味がある」というようなヌルい考えはしていないので、勝つためにどうしてもCMを打つと言い張る。自分で借金すると主張するがそれはさすがに周りがとめる。普通の候補は次があるので負けても資金集めを継続できるが、ドリスの場合は次の立候補はないので借金すれば、そのまま個人の負債になるからだ。

しかし金が集まらないことは同じである。しかも演説はろくに覚えられないし、ディベートでの想定問答の練習もおぼつかないありさま。耳も遠い。94歳だということは選挙での言い訳にはならない。だがテレビディベートでは、バカにしてかかっている対立候補に一矢報いる。それにとうとう私財でCMを打つのである。回数は問題にならないほど少ないとはいえ。

結果は当然負け。開票率3%の時点で相手候補に当確がつく。得票率34%。5000ドルの赤字。徒手空拳にしては悪くはない数字といえる。そして、この婆さん、政治活動をまだ続ける。選挙の後も、選挙への公的資金導入を求めて運動しているのである。「愚公、山を移す」というが、人間の信念の力、あなどりがたしと感じさせる映画。

この映画を紹介するシネフィルイマジカのHPの文章では、「州議会議員に立候補」と書いてあるが、まちがい。映画を見て書いているのだったらありえないミスだが?
http://cinefilimagica.com/movie/m9/009366.html