戦争はなぜ起こるか

『戦争はなぜ起こるか』佐藤忠男ポプラ社、2001

1974年刊行の本に加筆したもの。漢字にフリガナが多くつけられているところから、おそらく高校生、中学生を対象としているのだろうと思われる。日中戦争、第二次大戦、冷戦、ベトナム戦争ほかの例から、戦争の原因を究明し、戦争をなくす方法を考えようという内容。

まあ一読して「映画評論家が知らない分野に手を出すべきでない」ことは一目瞭然。戦争の原因を考えるといいながら、戦争の事例分析をしている章の内容と、戦争の原因を考察している章の内容がまったくズレている。戦争の分析も浅い。歴史に関する知識がなく、過去の文献にほとんどあたっていないのだろうという察しはつく。さらに、「貧富の差をなくそう」とか「他民族への偏見をなくそう」といった小学生への説教みたいな文章が続く。それが戦争の防止とどう関連しているかは説明されていない。「人間は家族愛というものを知っているのだから、人を憎むのではなく愛することができるはず」、とかむちゃなことを平気で言っている。家族愛と戦争はぜんぜんレベルが違うと思うが。だいたいローレンツ『攻撃』しか読んでいないような人に、動物と人間の攻撃性についての議論を振り回す資格はないだろう。戦争の原因は大国の弱者に対する蔑視と拡張主義だという程度の考察しかできないレベルの人には、クスリのつけようがない。

著者は、「戦争は誰にも関係があることだから、誰もがそれについて発言できなければいけない」という。それはそうだが、浅い考察しかできない人が本を出していい理由にはならない。そもそも戦争について考えるといいながら、日中戦争以後の事例しか取り上げないこともおかしいだろう。また子供向けなら、なおさら関連文献を紹介すべきなのに、それもしていない。手抜きに加え、自分の経験以外に何も学んでいないのである。まさに老害の見本。