失われた町

『失われた町』三崎亜記集英社、2006

『となり町戦争』の三崎亜記の長編二作目。これもおもしろい。いろいろと道具立てがややこしくて入っていくのに少し時間がかかるが、中にはいろんな引き出しがあって、おもしろいものがてんこ盛りになっている。

町の住人が理由不明のままいきなり消えてしまう、という基本設定はそんなに奇抜だとは思わない。だが消滅が「伝染」するとか、それを防ぐために消滅した町の痕跡を抹消するための役所があるとか、消滅耐性とか別体とか、いろんな道具立てが出てきて話がややこしくなる。で、ややこしくなってはいるが、読者が話に入り込むことの邪魔にはなっていないのである。SF的な設定だが、ハードSF方向にはいっておらず、あくまで(サイエンスのつかない)「フィクション」の分を守り通している。

それぞれの章は独立して読めるようになっているが、きちんと伏線が張ってあって読み進めていくと全体がきちんと見渡せるようになっている。そういう意味で「上手な」小説なのだが、設定やら登場人物の関係の複雑さが簡単に理解したような気持ちになることを防いでいる。それも含めて上手い。

作品の世界に入っていければ、お話のおもしろさは十分味わえる。ただ、自分は『となり町戦争』の単純だがスピード感のある話のほうが好きなのでちょっと複雑ではある。