幕末

『幕末』司馬遼太郎、文春文庫、2001

「幕末暗殺史」とでもいうような司馬遼太郎の連作短編集。桜田門外の変から、王政復古直後のパークス襲撃事件まで12編の短編が並んでいる。著者はあとがきで、「暗殺は嫌いだ。桜田門外の変を除けば、歴史への影響もない」と書いているが、そのわりには新選組やら土方歳三やらテロリストのこともけっこう書いているように思うが・・・。

暗殺の動機は単純に言って奸物だから斬ってしまえというのと、それとあわせて名のある奸物を斬れば自分の名が高まるというようなもの。それもだんだん時間がすぎて人斬りがあたりまえという時代になってくると、たいした理由はなくてもいろいろと口実をつくって人を斬る。テロがはやるというのは、そんなものだろう。

小説の中では、斬る側、斬られる側、斬って出世した人、刑死した人、逃げおおせた人、いろんな人々のそれぞれの事情が語られる。結局多くの人は切った張ったを長く続けることはできなかったので、生き延びた人々が維新後偉くなっていく。斬ったり斬られたりして名前が残った人はいいほうで、多くの人はろくに名前も残らずに死んだ。この短編集には、そういう死者達への手向けという意味もあるのだろう。