家族八景

家族八景』上下、清原なつの角川書店、2008

筒井康隆初期の傑作のコミカライズ版。小説を最初に読んだのは高校生のときなので、内容はおぼろげにしか覚えていなかったが、これを読んで全部思い出した。それだけ印象が強い作品だったということか。

清原なつのの絵柄は、原作小説に非常にあっている。原作はかなり強烈な内容なので、清原なつののような、毒々しくない絵柄のほうがいいのである。特に主人公の七瀬は、きれいだが目立たない女という設定なので、絵柄のきつい人では合わない。その点、作品の選択はよい。また原作は人間の性欲がストレートに前面に出た話が多いが、セックスシーンもこの絵柄くらいだとちょうどよい。

しかし原作はほとんど主人公七瀬の思考の中で展開する話なので、これをマンガ化するのはたいへんである(筒井康隆が巻末に文章を載せていて、そこでも指摘されている)。この作品をマンガでここまでやったのは、清原なつのの筆力。特に「水蜜桃」で七瀬が老人を追い詰めていく場面は出色。

巻末に筒井康隆本人の文章と、NHK少年ドラマシリーズ」での「七瀬ふたたび」のドラマ化についての幕間滋民の文章がのっている。筒井康隆によると、この小説はつまらない難癖をつけられて直木賞をとれず、また殺人事件の犯人がこの本に影響されたということで、それに関連して嫌な質問をされたそうで、よくない思い出が強いのだそうだ。しかし誰が何と言っても筒井康隆初期の最高傑作のひとつで、続編「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」に比べても本作の出来のよさはゆるがない。清原なつのは、リアルタイムで原作を読んでいた世代の人だから、やはりこの作品に忘れがたい愛着があったのだろう。

原作をすでに読んでいる人であっても、一読の価値は十分にある本。