北朝鮮生活

北朝鮮生活 カメラに映らない「北」の市民社会』チャン・キホン(宮塚利雄訳)、イースト・プレス、2002

脱北者の手記。冒頭にロシアに木材伐採労働者として出国し、ロシアからハンガリー経由で韓国に入ったとある。1988年に脱走し、1991年に韓国に入国したということだ。著者は1963年生まれとあるので、だいたい1980年代の北朝鮮事情の手記ということになる。

脱北者の手記としては特別な情報があるわけではない。ただ鉄道については、著者が大学を3年で中退して、鉄道局勤務になった時期のことが多少参考になる。1980年代に蒸気機関車が、機関車全部の3割程度、また金正日お召し列車は「電気がなくても自走する機関車」とわざわざ書いてあるので、ディーゼル機関車はほとんどなかったと思われる。それから20年以上たった現在では、蒸気機関車は減っているだろうから、多くは電気機関車だろう。ディーゼル駆動は石油が乏しい状態ではほとんど増やせないだろうから、機関車の多くは電気駆動。つまり電気がこなければ鉄道は動けないことになる。自動車は日本製とロシア製のものをのぞけば、多くが木炭車で、しょっちゅう故障し、きつい坂道は出力がないので上れないというようなことが書いてあるので、自動車輸送も相当逼迫しているだろう。アメリカからの重油供給の停止がいかに大きなダメージになっているか、また最近のエネルギー価格の上昇も相当なダメージになっていると推察される。

北朝鮮の恋愛事情については半分くらいのページが割かれているが、ほとんど日本の中学生並み。もちろん北朝鮮でも、やることはやっているのだが、コンドームがろくに手に入らない状態では仕方ないのだろう。

それにしても1980年代のことを書いた手記を2002年に出版しているのだし、著者は北朝鮮社会を専門にしている人なのだから、きちんとした解題がついていて当然なのに、訳者による文章がまったくついていないのは理解できない。そういう意味では資料的価値は薄い。