平将門

平将門 射止めよ武者の天下』高橋直樹角川春樹事務所、2002

平将門ものの小説だが、これはよく書けている。著者は時代物、それも鎌倉期のような古い時期の時代物を手がけている人なので、この時期の基本的な歴史をきちんとおさえている。軍の徴募、農民と武士の関係、領地経営、国衙と私領の関係、国司と豪族の関係等々。そういう事実を踏まえて、10世紀の反乱を中世初期の戦いとして、リアルに造形できていることがこの本の強みである。

平将門の人物描写もいい。というか、今時代劇専門chで放送されている「風と雲と虹と」を見ているのだが、あれでは将門が加藤剛という役者のキャラクターに合わせて造形されているような感じで、ちょっとついていけない。実際の将門は剛胆、強悍で優れた軍略家として描かれていないと読んでいる方は納得いかないのだ。平貞盛、田原藤太もよく描けている。それに加えて、「ジサイ」という領主が抱えている巫呪のような存在が重要な役割を果たしているのだが、これがいい意味で物語におどろおどろしい中世的な味をつけている。将門のあっけない最期と話の結末もいい(なぜ将門が四郎を他家に出したのかがよくわからないのだが・・・)。中世武士を描いた作品として佳作である。