カラヤン帝国興亡史

カラヤン帝国興亡史』中川右介幻冬舎新書、2008

2008年はカラヤン生誕100年ということで、CDは出る本は出るテレビでも映像がばんばん映るで、カラヤンものばっかしである。作曲家はともかく、演奏家で没後これだけ話題になったのはカラヤンがきっとはじめてだろう。あれだけの録音が残っているカラヤンならではの話である。ベームじゃぜんぜん無理だし、フルトヴェングラーでもこんな騒ぎはなかった。

で、この本だが、楽壇政治に話をしぼって書かれていて、カラヤンの音楽そのものについてはほとんど書いていない。そこが慧眼で、この本を非常におもしろくしている。ベルリンフィル終身首席指揮者、ウィーン国立歌劇場芸術監督、ザルツブルク音楽祭芸術監督のポストを獲得するまでの虚々実々のかけひき、権力を握った後の人事権を通じた支配、楽団との摩擦や対立など、どれをとっても引き込まれるほどおもしろい。どこの世界も、権力がからむと起こることは同じだねぇと思う一方、音楽だけでないことにこれだけエネルギーを注いだカラヤンの精力(指揮者はただのいい人ではダメなのだが)にも圧倒される。

自分はベームの存命中は、カラヤンははったりがききすぎているような気がして、地味なベームに肩入れしていたのだが、今CDや映像に接すると、素直にカラヤンはやっぱりすごいと思える。この本を読んで、カラヤンがますます魅力的になった。スターはやっぱりえらいのである。