戦士たちの挽歌

『戦士たちの挽歌』フレデリック・フォーサイス(篠原慎訳)、角川書店、2002

フォーサイスの短編集。といっても、最後に収録されている「時をこえる風」は中編くらいの分量がある。フォーサイスの短編を読むのははじめてなのだが、この本に収録されている作品が全部傑作。ストーリーがおもしろく、細部の書き込みが充実していて、ラストがあざやか。最近、「素人小説」を読むことが多かったので(これはこれでおもしろいのだが)、本物のプロの筆力を堪能した。
それにしても、警察と裁判、美術品のオークション、第二次大戦と中世のイタリア、旅客機乗務員と麻薬密輸、カスター連隊の全滅と幻想的なロマンス、とそれそれの作品にまったく重なったところがなく、それでいて作品世界の構成と考証がここまで緻密にできるのは並の取材力ではできない。それがプロだ、ということなのだろうが、マスターピースというのはこういうものだと思い知らされる。個人的には、やはり巻末の「時をこえる風」が一番の傑作だと思う。