城塞

『城塞』(上、中、下)司馬遼太郎新潮文庫、1976

題材は大阪の役。読み始めは、このネタでそんなに書くことあるのかなと思っていたが、とにかく徳川方の策謀(「ほとんど犯罪」とまで書いている)と、内通者だらけ、トップ不在、内部はバラバラ、の大阪方のさまをなめるように詳しく書いている。主役、というよりは狂言回しは、これも大阪方にいる徳川方の内通者である小幡勘兵衛景憲。物語の主役としてはいかにも小さく、終わりのところでもことさらに卑小な人物として描かれている。
やはり話の主題は城にすがって昔日の威光を保とうとする哀れな豊臣家の末路にあり、徳川家の策謀や豊臣家の間抜けな女たち、最後の残照のように活躍する真田幸村らは、豊臣家の悲喜劇(豊臣家のどうしようもなさは、悲劇という単純な言葉では言い表せない)を強調するための、照明のようなものである。はっきりいって司馬遼太郎の小説として、おもしろい部類に入るとは思えない(なにしろネタがそんなにおもしろくなりようがない)。しかし織田、豊臣、徳川家による戦国時代の終わりを書いてきた著者としては、これは書いておかなければならない話だと言うことはわかる。それに、この題材でここまで長い話を書いて退屈させないところは、さすがに司馬の力量を感じさせる。