高野聖

高野聖泉鏡花、角川文庫、1971

古い本をいろいろ読む機会があってこれもそのひとつ。まず設定で成功している。飛騨から信濃へ向かう山道といえば今だって人の影もまばらなところ。危険に見える山道をあえて選ぶ僧、うじゃうじゃ出てくる蛇、蛭、字を追っているだけでも気持ちが悪い。それからいきなり現れる山中の一軒家に美人と中年男の怪しい組み合わせ、美人の尋常でない妖艶さ、周りにまといつく動物も趣深い。そして最後の種明かし。構成がきちんとしていて、僧、女、獣たちのそれぞれの対比が鮮やか。老僧が若かりし日の自分を語る形式もよい。緻密な作品だと思う。