退屈論

『退屈論』小谷野敦、弘文堂、2002

退屈についての、人間がどうやって退屈をまぎらわしてきたかについての歴史と考察の本。博識な著者のこと、文学、思想作品が広く渉猟され、退屈史がいろいろな形で示されているので、眺めているだけで楽しめる。セックスと退屈の関係について述べた章は出色。時に自虐的なネタで笑いをとりながら楽しく読ませる著者の芸が堪能できる。最後に退屈への処方箋が述べられているが、これはまあご愛嬌。社会がスローになろうと、退屈が減るものではないだろう。どちらかというと著者が退屈を紛らす方法(喫煙以外で)でも書いてくれたほうがおもしろかったのに。著者としては、何か新しいことが退屈をきれいさっぱりなくしてくれるという考えを批判したいようだが、そうでもしないと退屈を紛らせることができないというもう一方の事情についてはあまり斟酌してくれないようだ。