下流志向

下流志向』内田樹講談社、2007

評価のむずかしい本。副題に「学ばない子どもだち 働かない若者たち」とあるとおり、基本的にニート、学級崩壊といった、学ぶ、働くことからの逃走現象を扱っている。著者によるこの現象の解釈は、「市場経済が社会生活のあらゆる側面に浸透してきた結果、すべてのことを損得勘定で割り切るような行動様式が拡大し、学ぶこと、働くことが割りに合わないと考える人が増えている」というもの。
著者は、交換は無時間的だとか、労働価値説や剰余価値説を一方的に前提としているが、その部分は理解できない。それはあなたが一方的にそう思ってるだけじゃないんですかと。またリスク分散は集団でしかできないのだというが、それもそうかなあ。個人と集団のリスク分散の可能性の差は単に程度問題だと思うが。
ほかにもいろいろ疑問はあるのだが、著者の中心的な主張である、「教育は本質的にその人自身を変えてしまうものなのだから、その結果として得られる価値を事前に予測することができない」というところには確かに同意できる。「自己責任」についての議論とか、ほかにもおもしろい部分があり、特に最後の質疑応答(もともと講演の記録を本にしたもの)の部分は示唆するところが多い。同意できない部分はあるが、著者の基本的な姿勢には非常に説得させられる。