ヒトラー暗殺

ヒトラー暗殺』ロジャー・ムーアハウス(高儀進訳)、白水社、2007

イギリスの歴史家によるヒトラー暗殺計画史。44年7月20日の軍による暗殺にはそれほど頁が割かれていない代わりに、ヒトラー政権初期のパヴォーやエルザーによる暗殺計画、ポーランドレジスタンス、ソ連、イギリスでの計画、軍需相シュペーアによる計画などが取り上げられている。
それぞれの暗殺計画は単独犯から国家的な計画まで、詳細に、物語調で書かれていて、読み物としておもしろい。シュペーアヒトラー暗殺を考えていたことは自伝に少し出てくるが、その真実性の評価も含めていろいろと書かれていて興味深い。それにしてもかなり成功の可能性が高かった暗殺計画がこれだけあって、どれも偶然の理由で失敗したのは、ヒトラーの運の強さをあらためて感じさせられる。ヒトラー自身が自分が神に選ばれた者だという自覚を強くしていったのも納得。しかし一番おもしろかったのは、イギリスでヒトラー暗殺に反対した将軍が言ったという「連合国にとっては、ヒトラーがこのまま生きて誤った戦争指導を続けてくれるほうが利益になる」という言葉。フランスを占領した時点でヒトラーに死んでもらった方がドイツにとっては一番利益になったはずでその後のヒトラーのやり方は失敗続きだったのだから、、この言葉はパンチが効いている。