男であることの困難

小谷野敦『男であることの困難』、新曜社、1997

第一部は漱石志賀直哉を題材にした批評論文で、これは漱石と志賀の該当書を相当読み込んでいるか、日本文学を専攻する研究者でないとほとんど読めない。しかし第二部、第三部は非常におもしろい。特に「外国で日本文学を専攻するということ─私の留学体験記」が出色の出来。

もともとは著者の「もてない男」「帰ってきたもてない男」が非常におもしろかったので、その流れでこれを借りてきたのだが、これも期待にたがわずおもしろかった。北米で教員と学生がファーストネームで呼び合い、学生が教員を評価するシステムは、現実の権力関係を覆い隠すウソッパチだと喝破しているが、まあそれはそうだろうなと思う。リベラルなカナダ人が中途半端な日本の知識で、日本の後進性を叩こうとするというのもいかにもありそう。結局学問の皮をかぶった政治だから・・・。そのあたりは社会科学系だけじゃなくて、人文系も一緒なのね。

それにしても著者は私怨晴らしというかルサンチマン爆発がそのまま文章に表れたときに、一番おもしろくなるという異能の人。たいていの人の私怨晴らしはつまらないのにね。こういうねじけた才能が花を咲かすのだから、うらみつらみというものはあなどれない。