本当に「中国は一つ」なのか

『本当に「中国は一つ」なのか』ジョン・J・タシク(編著)、小谷まさ代、近藤明理訳、草思社、2005

アメリカでの「台湾派」寄りの議員、研究者によるシンポジウムの記録。当然ブッシュ政権の路線とは距離がある。だから副題の「アメリカの中国・台湾政策の転換」というのはやや誤解を招く可能性がある。
内容を一読してみると、参加者はほぼ一様に「中国は一つ」というアメリカの表明された政策は実質的に破綻しているのだから、別のやり方を考えよといっている。問題は、方針を変えろというその根拠だが、ほとんどの参加者が「台湾は民主国家であり、アメリカはその体制を守らなければならない」といっている。中国が安全保障上の脅威だからという理由をあげる参加者もいるが、そういう意見はこのシンポジウムでは少ないようだ。
しかし「民主台湾の擁護」と「あいまい戦略の放棄」は必ずしも直結するものではないのではないか。またあいまい戦略が失敗した場合にアメリカが払う代償もあまり真剣に検討されているとはいえない。アメリカのこの問題に関する政策の変遷が要領よくまとめられているのでその点は役に立つが、主張の根拠はやや薄いと感じる。

そういえば草思社はつぶれてしまった。国際問題についての一般向けの良書をコンスタントに出していた本屋だったのに、とても残念な思いがする。