日中関係

日中関係毛里和子岩波新書、2007

戦後日中関係を概観した本。まえがきに著者が「時を追った論述にはなっているが、概説を目的としてはいない」といっているように、かなり著者独自の分析視点が入った叙述になっている。もちろん著者は中国研究の泰斗だから、大量の文献をきちんと消化し、資料に対する新しい解釈も出している。全般的には良書といえる。
しかし、著者が「あるべき日中関係というよりも、現実にあった日中関係、現実にある日中関係を描くことに努めた」といっていることには疑問を感じる。というのは特に90年代以降の日中関係についての著者の筆には、著者自身のイデオロギー(日本は戦争についてより反省し、中国は過激な対日攻撃を自制すべきだというもの)がかなり露骨に反映しているからだ。たとえば著者が言う「日本の新ナショナリズム」には、橋本龍太郎石原慎太郎が同じグループとしてくくられている。こういう態度は正確さを欠いている。また日本のナショナリズムを大衆レベルではなく主に政治家や論壇レベルのものだとしていることにも疑問を感じる。さらに著者は日本が第二次世界大戦についての、日本としての歴史的総括を行い、国民レベルで合意を得るべきだといっているが、そんなことは無理である。むしろなぜそういう合意が中国や韓国に存在しているのかを問題にするべきだろう。
ということで、著者の政治的立場とそこから出る日中関係への提言には疑問を感じるが、分析レベルではきちんとした本であることはまちがいない。日中関係に対する多様な見方を学ぶ上でも役立つ。