馬上少年過ぐ

『馬上少年過ぐ』司馬遼太郎新潮文庫、1978

この短編集を読んだことはないはずなのだが、「重庵の転々」「城の怪」は何かどこかで読んだような気がする。錯覚かなあ。表題作「馬上少年過ぐ」は、題になっているわりには長くもなく、そんなにおもしろいわけではない。話は伊達政宗が父親を殺す羽目になってしまったところで終わっているし(つまり政宗が活躍し始める前)。
それよりは、絵描き田原草雲の話「喧嘩草雲」、河井継之助の話「英雄児」、脇坂安治の話「てん(字を出すのがめんどうなのでひらがなで)の皮」がおもしろい。「てんの皮」のようなマイナーな大名が少ないチャンスをつかんでそこそこに成り上がってなんとか生き延びる話は、山内一豊などでもそうだが、司馬遼太郎がとくいなパターン。脇坂安治のキャラ作りもくどくない感じでいい。大河ドラマがネタぎれになって、ちょっとマイナーな主人公を主役にしているが、本来中編用のネタを長編にむりやり起こそうとするからいかにも嘘っぽい話になってしまうので、そんなに長くない中編ならきれいに描けるのだ。
まあ豊臣秀吉とか赤穂浪士ばっかりじゃ飽きるんだろうけど。
また、「慶応長崎事件」とかは事実をたんたんと追いかけただけという感じでそんなにおもしろくない。司馬遼太郎といえども十割打者というわけにはいかないからしかたないけど。