日本は中国でどう教えられているのか

『日本は中国でどう教えられているのか』西村克仁、平凡社新書、2007

あまり期待しないで手に取った本だが、読んで見ると非常におもしろかった。内容は、中高一貫制の学校で歴史の教員をしている著者が中国に渡って、中国の歴史教育の実態を記したもの。特に近現代史について、中国の歴史教科書の記述や授業のしかたが日本のそれと細かく対比されていて、両者の違いがよくわかる。著者は明確な「自分の歴史観」を提示することは避けていて、結果としてこの本の記述はより説得的なものになっている。
中国の歴史教育は「反日教育」だといわれることがあるが、それはあまり正確な表現ではなく、正しくは「ナショナリスト教育」というべきだ。現在の中国を正当化するという大前提が最初にあり、歴史教育のすべては、そのために組まれている。歴史教育といっても、実態は政治教育である。もっともシナの伝統として、歴史は政治的正統性を確立するための道具だったから、それは別段目新しいものではない。昔からやっていることを大衆向けにやっているだけである。
歴史観が人によって違い、ナショナリズム(だけでなくほかのイデオロギーも)教育ができない日本とではまったく前提が違うから、最初から歴史についての議論は成り立たない。そもそも中国は「歴史についての多様な見方」の存在自体を否定するような教育をしているし。
日中教科書対話というようなものが行われているようだが、中国とは事実認識だけでなく、歴史そのものの位置付けが違うから、「日中共同の歴史教科書」など絶対にできないだろう(もっとも日中の見解がどの点で一致できないのかを理解することには意味があるから、教科書対話が無意味だとは思わない)。「東北アジア共同の家」なんてノーテンキなことを言っている人たちがどう思っているかは知らないが。