知識無用の芸術鑑賞

『知識無用の芸術鑑賞』川崎昌平幻冬舎新書、2007

美術鑑賞に美術史の知識は無用と断じ、知識抜きで美術にどう斬りこむかという著者の方法論を論じた本。著者の主張は、「芸術には答えがある」と思い込むから「自分には芸術がわからない」という誤解が生じるのだということ。芸術は見る人なりの感じ方、考えを返すだけで、そこに「答え」はないのだという。しかしそうなると「芸術ってなんだ」という当然の問いが出てくる。そこで著者なりの切り口で「なぜこの芸術は芸術として存在しえているのか」を60点ほどの美術作品を切ってみせた、というのがこの本。
また取り上げている作品の図版がまったく掲載されていないが、それは「本物を見ないでコピーだけ見て、見たつもりになるな」という著者のスタンスの産物。この本を読んでからその気になったら現物にあたれ、という著者の老婆心である。
著者の突っ込みかたは読んでいて非常にスリリングで楽しめる。ただ、その突っ込み方はすでに武器を持った人の突っ込み方で、丸腰の素人のものじゃないんじゃないの、という気もする(キューブリックフルメタル・ジャケット」についての文章はちょっと素人っぽいが)。まあ見る者が自分にあった武器をみがけ、ということなのだと思うので、それは言うべきことでないかもしれない。