少子社会日本

山田昌弘『少子社会日本』、岩波新書、2007

少子化問題の基本的原因を格差問題で解釈しようとする本。非常におもしろかった。著者の基本的な疑問は、「女性が働き続けようとすることが少子化の原因」(または、女性は働き続けることと出産の間でジレンマを抱えているという主張)はあまりあたっていないのではないかというもの。それに代えて著者が出してくる主張は、1.結婚や育児に期待する生活水準が上がった、2.将来期待できる生活水準が下がった、3.特に女性は収入の低い男性と結婚するよりも親と同居して生活水準を維持するほうを選択する、4.特に男性の「魅力の格差」(さまざまな要因があるが最も重要なのは収入)が拡大し、魅力の少ない男性には結婚の機会がなくなった、というもの。ヨーロッパやアメリカでは成人した子が親と同居する習慣はないので、貧困層はむしろ生活を維持するために結婚を急ぐ傾向があるが、日本ではそうした現象がない(韓国その他の東アジア諸国も同じ)という。
著者の仮説が成立するためには、高所得層の出生率は下がっていないかどうかとか、いくつかのことを見ていく必要があると思うが、基本的な議論の筋立てには納得した。育児か職業かの選択で悩むのは一部の高所得層だけで、多くの女性は所得の高い夫の下で専業主婦として生活するほうを選好するという説は実感としてもうなずける。
基本的な主張のほかにも、おもしろい発見がいろいろとあった。「できちゃった結婚」が結婚数の四分の一に達するという数字は驚き。男性の「もてる男、もてない男」の二極化現象は、よくいわれることだが、数字で示されてあらためて納得。親と同居する壮年(35歳から44歳)未婚者が、同年代人口の14%、250万人近くいて、三十歳台前半の女性の未婚率が32%といった数字を次々と見せられると、社会の状態は自分の想像の範囲をはるかに超えていることに複雑な気持ちがする。