徳川慶喜

松浦玲『徳川慶喜』増補版、中公新書、1997

維新史を専門とする歴史家による徳川慶喜の評伝。史実に照らして精密であることはもちろん、非常に筆の立つ人で、ぐいぐい読ませる魅力がある。司馬遼太郎『最後の将軍』とはかなり別の視点で徳川慶喜を描いており、また司馬の小説はかなり史実と離れた部分があることを指摘している。特に、鳥羽伏見の戦の時期での慶喜の立場と考え方については、考えを改めさせられた。
さらにおもしろいのは維新以後の長い後半生の部分で、徳川慶喜家の使用人の記録から、日々の生活の様子が細かくわかる。また、渋沢栄一による伝記の制作にあたって本人に事情をただした「昔夢会」での慶喜の微妙な態度は非常におもしろい。また巻末に徳川慶喜のいろいろな肖像写真や慶喜自身が撮った写真が豊富にのっており、眺めているだけでも楽しい。