<私>の愛国心

香山リカ『<私>の愛国心』、ちくま新書、2004

駄本。自分の意見と対立する右派やその見解を精神医学の用語を使って「病気」扱いしているだけの本。香山リカは、自分が歴史のこともナショナリズムのこともほとんど知らないのに、聞きかじり程度の知識でそういうテーマについて本を書くことにためらいや恥ずかしさは感じないのだろうか。
いちばんのけぞったのは、「ナショナリズムについて語るにはナショナリズムの歴史を学ぶべきだ」という意見に対する香山の反論である。香山によれば歴史はあくまで現在を起点に語られるものだから、ナショナリズムが高揚している現在から歴史を学ぶと、現状を肯定する方向でものを語ることになってしまう、ということだ。香山は精神科医であり学問をやっている人の一人のはずだが、こういうバカなことを本気で考えているのだろうか。おまけにそこで引用している本が小熊英二である。香山はぜったい小熊英二の本を読んでいるとは思えない。
ほかにも「他人をバカだと見下す」傾向のひとつに「バカ」本ブームをあげ、その代表例に『バカの壁』をあげているのだが、『バカの壁』はそういうことをいっている本ではないだろう。せめて新書なんだから読んでからいってはどうか。
特にあとがきですごいことを言っている。内容は精神科医にたまにある勘違いの域を出ない。
香山リカは、ほんとに政治的な問題に関して発言したり、本を書いたりすることは控えたほうがいいと思う。神経症サブカル関係の本は十分おもしろいのだから、何も知らない分野に手ぶらで殴りこみをかけて恥をかく必要はないと思うのだが。