日本男児

赤瀬川原平『日本男児』、文春新書、2007

赤瀬川原平の本はいつもおもしろい。これだけおもしろ打率の高い作家はそういないだろう。しかしどこがおもしろいのか、はっきり言葉で説明しようとするとむずかしい。そういう微妙なところで人が見過ごしている大事なものを拾うのが上手な人だ。
この本では、たびたび「左翼」が槍玉にあがっていて、文字通り反権力、反体制のこともいっているのだが、「喫煙者は左翼」「夜型生活は左翼」というふうにも使われている。よく読んでみるとたしかにそんな気がする。ちょっと左翼に浸ってみたい気分は、たぶん多くの人にあるのだろう。年をとると多くの人がそこから脱皮していくが、世の中、そういう意味での大人がだんだん減っていっていつまでたっても左翼(反体制というよりは、自分左翼)が多くなっているようだ。そして著者のような形で左翼にいきたい、その微妙な気持ちをつかまえていられる人は少ない。
「自由」もとりあげられている。自由は目の前にあるのだが、つかまえようとするとそこから逃げていってしまうもの、飲みたくてたまらないが飲み下してしまうとおなかをこわすもの。自由と上手に暮らすのはほとんどの人にはムリかもしれない。