となり町戦争

三崎亜紀『となり町戦争』、集英社、2005

前から読みたいと思っていて、機会がなかったのだが、図書館の書棚でたまたま見つけてきた。いや、これはおもしろい。たしかに戦争しているのだが、それを実感させる機会はほとんどなく、唯一敵の「査察」があるという情報を得て、あわててアジトを逃げ出す場面くらいである。それ以外は、「佐々木さん」と「香西さんの弟」の戦死を伝えられるところで人の死を間接的に感じ取れるくらいで、それも伝聞である。昔読んだ「ベトナム観光公社」をちょっとだけ思い出す。もう戦争とはわたしたちにとっては実感を伴っているものではない。空襲の体験者や広島や長崎の被爆者の肉声ですら、ほとんど歌舞伎の所作のようなものだ。最後に主人公が香西さんに記憶のリアリティを求めるところは、何か自分をそこに預けられるようなリアルを求めないではいられない主人公のすなおな弱さが出ていてとてもいい。
あと妙なリアルさを感じるのは、いろんなところに切れ切れに挿入される役場の公文書。この事務的な感じがこの本のさらさらした手触りを上手につくっている。