増補版 日朝関係の克服

姜尚中『増補版 日朝関係の克服』、集英社新書、2007

増補版というからどのくらい増補されているのかと思ったら、わずか7ページの「増補版 結びにかえて」が追加されているほかは、資料編で年表の書き足し、六カ国協議関係の関連文書の追加(これは他の本の訳文を転載しただけ)がなされているにすぎない。こういうことが著者の感覚では許されるのかどうか。
内容は、あいかわらずの太平楽。今年2月の六カ国協議合意を踏まえて書かれているのだが、いわゆる「初期段階」の履行についてはともかく(それですら、いまだに実行されていないのだが)、事実上具体的な問題が先送りされている「第二段階」の措置については、何の根拠もなく楽観的な期待を述べているにすぎない。さらに「米朝国交正常化」に至っては、その先の話であり、現段階で見通しのたつような問題ではないだろう。著者は米朝国交正常化を見据えて「アメリカはルビコンを越えた」と断定しているが、その根拠はやはり示されないままである。2月合意はさしあたり、北朝鮮を宥和して核爆弾の増産や再度の核実験を延期させる効果はあるので、無意味ではない。しかし、現段階でその先のことを期待するのは、調子がよすぎるというものだろう。
また著者は南北の政治体制や外交、国防権をそのままにした状態での「統一」を考えているようだが、それは統一ではなくて現状の固定化にすぎないという認識はまったくないようだ。金大中ですら、そんな案は一蹴しているという事実は知らないのだろうか。著者は「理想だけが現実を批判しうるのである」と揚言しているが、ピントの外れた「理想」は現実によって反撃されるということには思い至らないようだ。