弄ばれるナショナリズム

田島英一『弄ばれるナショナリズム』、朝日新書、2007

中国におけるナショナリズムの分析をナショナリズムの標準的な理論をもとにして行う本。はじめのうちは標準的だがありきたりの議論をしているのかなと思ったが、読み通してみて、現在の中国の過激なナショナリズムの理解には、標準的な理論を通じて中国のナショナリズムが歴史的にどう展開してきたのかを理解することが不可欠だと考えるようになった。「愛国教育」「草の根ナショナリズム」の関係についても、本書の分析ではじめて得心がいった。
また、中国の政治体制と世論の関係、共産党一党支配体制の拘束性、中国における民主化問題の危うさなど、中国政治についても教えられる点が非常に多かった。「ポリアーキー」の概念については、著者はちょっと思い違いをしているようだが。
率直に言って、終章の日中関係についての著者の提言にはあまり同意できない部分も多いが、それは別として、分析そのものは高いレベルでまとまっていると思う。日中双方のナショナリズムが「パイ投げ合戦」になっている現在、著者の視点にはそれなりに評価されるべき点が多い。