美しい国へ

安倍晋三美しい国へ』、文春新書、2006

もともと読むつもりのない本だったのだが、いろいろな都合があって、読むことになってしまった。章立ての順番は、家族と政治的経歴、拉致問題靖国問題ナショナリズム天皇、日米同盟と自衛隊の海外派遣、日中関係とアジア、太平洋地域外交、少子化年金問題、教育問題というもの。語り口はやわらかいが、どの章も、かなりナショナリズムと伝統的価値観の重視を前面に出して書かれている。左翼が青筋を立てているのもまあ納得。自民党の総裁になった人で、このくらい右派のイデオロギー色を最初からはっきりさせていた人は、岸信介以来、ちょっと記憶にない。これがベストセラーになって、その上で総裁選挙前にあれだけの人気があったのだから、それだけ世論が相対的に右にシフトしていたということになる。
また、経済政策を正面から扱った章がない。財政赤字増税問題(これはまあ取り上げないだろうが)、日本経済の成長戦略といった問題は、ほとんど触れられていない。安倍首相の政治家としての経歴からすれば不思議なことではない。しかし小泉政権の5年間が日本の政治課題をすっかり変えてしまったことを改めて感じる。