「北」の迷宮

ジェームズ・チャーチ(小林浩子訳)『「北」の迷宮』、早川書房、2007

北朝鮮を舞台にしたミステリー小説。原題は「高麗ホテルの死体」。主人公は北朝鮮の人民保安省の捜査官で、通過する車の撮影を命じられたことにはじまり、省の上司、対外情報調査部の男、保衛司令部の男等等に振り回され、何のための任務か、行く手に何があるのかをまったく知らされないままで、捜査を続ける。主人公の行く先々には監視の手がまわり、周囲の人間たちは次々と死ぬ。日本から輸入した高級車の横流し密輸に、拉致事件をめぐる日本との交渉問題がからんでくるが、事件の全貌は結局よくわからない。ストーリーを一読で理解するのは非常にむずかしい。しかし、面白い。
著者は覆面作家で、諜報活動に従事していた経験があるそうだ。上手な小説といえるかどうかわからないが、共産圏もののミステリーの中でも出色の出来だと思う。