頭を冷やすための靖国論

三土修平『頭を冷やすための靖国論』、ちくま新書、2007

完全に議論が分裂し、妥協案が出てはつぶれていく状態にある靖国神社の位置づけに関する議論に一石を投じる良書。同じ著者による『靖国問題の原点』の改訂版にあたるものだが、重要な史料にあたり、また最近のこの問題に関する事実や議論の展開にもきちんと触れていて、内容は充実している。
著者の立脚点は、中国その他に対する外交問題という次元をいったん離れて、靖国神社が戦後辿ってきた道程を再検証すること、その中で戦没者追悼問題に対する解決策がどのように模索されてきたのかという問題を見直すこと、を通じて靖国神社問題を見るべきだというものである。本書を読めば、「A級戦犯分祀」論が問題の解決から非常に遠いものでしかないことがわかる。また占領下における靖国神社の処遇問題とその後のこの問題の展開をきちんと説明しているので、「どこでねじれが生じ、何がひっかかっているのか」がクリアに把握できる。これが高橋哲哉靖国問題』と同じちくま新書から出たということが非常におもしろい。どのような立場をとるにせよ、靖国神社問題について議論する場合に必携の一冊だといえる。