日中はなぜわかり合えないのか

莫邦富『日中はなぜわかり合えないのか』、平凡社新書、2005

2004年のアジアカップサッカーでの中国の反日暴動その他の事件を受けた、日中関係のこじれを中国側の立場から見ようとした本。著者は本書のタイトルを『日中友好時代は終わった!』としようとしたが、出版社の意向でこの題になったという。しかし、いずれにしても本書の内容からは、なぜ日中関係が悪化したのかという問題のかんじんの理由はさっぱりわからない。著者によれば、「日中はなぜわかり合えないのか」という設題がおかしいので、関係悪化の原因は日本の政治家や国民の一部(かなり大きな層)が中国人の感情を理解しようとしないことにあるのだという。それなら、中国人の感情とはどういうものなのか、なぜ標的が日本だけに向かうのか、ちゃんとした説明があってよさそうなものだが、それがない。日本企業の中国での失敗が縷々のべられているが、それはそれで問題ではあるものの、日中関係の悪化が日本企業の無理解にあるという議論はいくらなんでもムリだろう。中国国内のインターネットを通じた世論形成の重要性が非常に強調されているが、それが中国の世論全体をどの程度代表しているのかというかんじんな点には触れられない。「2ちゃんねる」が「一部の極端な日本人の意見にすぎない」と切り捨てられているけれども、そうであればなおさら中国のインターネット世論にも同様のことはあてはまるはず。
唯一知識として役に立ったのは、雑誌『戦略と管理』に載った馬立誠の論文、「対日外交の新思考」が中国国内でまったく相手にされなかったという事実がわかったことのみ。