尻啖え孫市

司馬遼太郎『尻啖え孫市』、角川文庫、1969

雑賀党の首領、鈴木孫市を主人公にした司馬遼太郎の時代もの。手元の本は1997年発行で第五十版。ロングセラーだけのことはある。文庫本で600ページはあるが、いっこうにあきない。雑賀党の神業めいた鉄砲術にはちょっとついていけないところもあるが、まあそれは時代ものに文句を言うことではないのでいいか。しかし陶磁の砲術についてもう少し詳しい描写があってもよかったのではないかと思う。
それより本願寺一向宗勢力とのかかわりが話のもうひとつの柱になっていて、その部分はとてもおもしろく読める。孫市を門徒ではない設定にしたところもよくきいている。最後は駆け足で終わるが、妙に話を長引かせずにさっと終わらせるのも作家の技量だろう。