市場の倫理、統治の倫理

ジェーン・ジェイコブズ(香西泰訳)『市場の倫理、統治の倫理』、日経ビジネス人文庫、2003

社会倫理の起源についての文明論的考察というような本。日本ではこういう本は非常に書かれないが、かなり深く歴史や人類学を含む広い分野にわたる教養がないと書けない本。また内容的にも、社会システムと倫理の歴史的関係という、大きくて簡単に手がつかない挑戦的な課題にあたっていて、読んでいてとてもスリリングな感じを受ける。
西洋の古典教養についてのよき伝統をきちんと咀嚼し、継承する。プラトンから出発し、そこに帰ってくる論旨の展開のうまさには感嘆。方法的にもプラトンの「饗宴」を思い出させる。アメリカには、本職を学問としない人たちが、知的な課題について意見を交わす土壌があるのだろうか。こうした市井の教養人が知的なサロンを自由に形成できる環境はあまり日本にはないような気がする(趣味のサークルのようなものとは少し違う)。これはとても貴重なことで、うらやましく思う。