アジア冷戦史

下斗米伸夫『アジア冷戦史』、中公新書、2004

表題はアジア冷戦史となっているが、実際は「冷戦期におけるアジア社会主義諸国関係史」という内容の本。著者はソ連研究の泰斗なので、ソ連から見た視点が中心的になってはいるが、アジアの社会主義諸国と東欧圏のそれとの違いは十分に認識されており、むしろその点が本書の記述の中心になっている。ソ連、中国、北朝鮮の関係が当初の「一枚岩」から、どのような過程をたどってバラバラなものになっていったかが資料をもとにした厳密な記述により活写されている。特に共産中国成立をめぐる中ソ関係、朝鮮戦争、中ソ対立の部分が分析の焦点となっており、教科書的なレベルをこえて、三者の複雑な関係が明らかにされている。またソ連、中国、北朝鮮のいずれの国においても、核兵器開発が民生面での多大な犠牲のもとに行われており、核開発と飢餓は相伴うものだったという主張は興味深い。ページ数は少ないが、非常に内容が濃く煮詰めてある本。