テポドンを抱いた金正日

鈴木琢磨テポドンを抱いた金正日』、文春新書、2006

金正日の「伝記」。じつは伝記というにはエピソードの積み重ねのような色合いが強く、編年的な普通の伝記ではない。しかし金正日の伝記は、北朝鮮公定の「お話金正日伝」を除けば、このような形でしか書くことはできないだろう。エピソードの積み重ねとはいっても、それぞれのエピソードは北朝鮮の内部文書やすでに北朝鮮では抹殺されてしまった確度の高い文書、あるいは元総連幹部からの聞き取りなど、確かな裏づけをもとにして書かれており、頁数は少ないものの非常に価値の高い本。北朝鮮研究が現在どのような形で可能なのかという問題についても示唆を与える本となっている。何よりも、読んでいておもしろく、あきさせない。金正日がどういう人間なのかについて教えるところが多い。著者は毎日新聞記者だが、長年の韓国、北朝鮮ウォッチャーとしての積み重ねが大きくものをいっている。残念なのはタイトルが際物っぽくなっていて、読者の読む気を萎えさせること。できれば加筆、改題して単行本として出し直してほしい。