軟弱者の言い分

小谷野敦『軟弱者の言い分』、晶文社、2001

小谷野敦のエッセイ集。ちょっと昔のもので、時代を感じさせるところもあるけど、やっぱり面白い。
クラシック音楽の分野で、「通」が「俗」をバカにする嫌らしい傾向が特に強いという説には納得。他の分野をバカにするのではない。同じ分野の中で「俗っぽい」ものをバカにするのだ。やたら「精神性」を振り回す人もいるし、なんとかならないのか。
博覧強記の小谷野なので、どんなものに触れていてもおかしくはないが、「落語のピン」をやっぱり見ていたんだなあ。あれは本当におもしろい番組だった。志らくなんかあれで世に出たようなものだった。とてもなつかしい感じがした。
終わりのほうに出ている「にわか文藝評論家の日々」(なぜか小谷野は芸をすべて「藝」と書いている)は、新聞の文芸時評執筆時の記録で、「どの本をどういう理由で落としたか」が細かく書かれていて、おもしろい。三冊ずつしかのらない朝日の文芸時評なので、ほかにどういう本が検討されていたのかは執筆者を評価する上でも大事なのだ。こういうものを堂々と公開できることは、仲間ホメをやっていないことを示す上でも必要なことだと思う。朝日の日曜日の書評欄でも、露骨に仲間ホメ、政治的道具に書評委員の地位を使っている人は実際いるのだから。