エリートのつくり方

柏倉康夫『エリートのつくり方』、ちくま新書、1996

これも買ってからずーっとほうっておいた本だったが、簡単に古くなるような内容の本ではないので、いま読んでもまったく問題ない。副題の「グランド・ゼコール社会学」のとおり、エコール・ノルマル・シュペリエールを中心として、フランスのグランド・ゼコール教育のあり方を学校の歴史、知識人のグランド・ゼコール生活、現代におけるグランド・ゼコール教育の課題、といったことから見ている本。ごく少数の知的エリートを選抜して、徹底的に仕込むというやり方、それを国家機関によって無償で行うやり方は、能力に基づく一種の貴族制で、フランスの伝統には非常に適合的なのだろう。これに比べると日本はおよそ知的エリートの養成を組織的にやっているとはいえないことになる。日本で行われているのはそれぞれの組織が自分の組織内でやっている幹部養成のプロセスだけである。
しかしこの本で一番驚いたのは、グランド・ゼコールよりも、それ以前のバカロレア試験のほうだ。「仕事は人間にとって、必要を満たす手段にすぎないか」という問題の模範解答は、日本では大学院修士レベルでもここまでの回答を書けるものはそういないというもの。フランスの学生は、高校を出る程度でこの模範解答にどこまで近いことが書けるのか?こんな試験をして、それなりの合格者を出せるということがちょっと簡単には信じられない。