反=文藝評論

小谷野敦『反=文藝評論』、新曜社、2003

小谷野敦の「文芸評論」本。副題が「文壇を遠く離れて」とある。内容は確かにそのとおりで、村上春樹はけちょんけちょん、それだけならいいが「政治としての対談・座談会」では対談や座談会という形式がいかに文壇での「取引」の道具になっているか、人脈づくりのために日ごろの主張をひっこめてまで馴れ合いをやっているか、ということがいちいち実名を上げて書いてある。これではさぞかし文壇の人々と付き合いにくいだろうと推察する。もっとも著者は田中優子を痛烈に批判したあと、当人と対談したといっているので最初から根性がすわっている人なのかもしれない。おもしろかったのは、「筒井康隆について」「虚構は「事実」に勝てるか」「「堕落論」をめぐる謎」ほか。筒井康隆はかつて読んでいないことが無教養のしるしのように言われていた作家で、現在も書いている人なのにもかかわらずなぜ作家として論じられる対象からはずれてしまったか、ちょっとわかった。坂口安吾の「堕落論」に著者は批判的で、その批判はけっこうわかるのだが、自分はやっぱりおもしろいと思う。それから「ノルウェイの森」に対する私怨まじりの罵詈雑言についてはとにかく笑えた。期待通りたのしめた一冊。