東アジア共同体

谷口誠『東アジア共同体』、岩波新書、2004

東アジア共同体は現実的に可能であり、また日本が目指すべき政策目標でもある、という明確な主張をもった本。著者は外務省で経済畑を歩いた人で、上滑りな議論はしていない。

日中関係がここまで悪い現在(この本が書かれた時期よりもさらに悪くなっている)、東アジア共同体など問題外に映りがちだが、実際にはASEAN日中韓の三国がそれぞれFTAを締結に動いていることで、東アジアにおける経済統合は着実に進展している。そうすると東アジア経済共同体までの道のりは30年とかそれ以上のような長期ではなく、そう遠くないはずだという著者の主張には納得させられる。

この本の価値は、そういう見通しの上に、現実的に何をすべきかという政策論を議論していることで、環境、エネルギー、農業、金融といった問題について、どこから手をつけて何をめざすべきかを論じている。非常に力のある議論だと思う。

正直言って、本書を読んでも、それらの分野での協力関係が平坦な道のりで進むとは思えない。統合の利益だけでは必ずしも統合が進むわけではなく、外部からの圧力のようなものがないと統合にはずみをつけることは難しいのではないかと感じる。しかし、それはそれとして、著者の主張する分野での協力関係の構築はどれも今から手をつけなければならない問題であり、東アジア共同体の成否は具体的な問題をひとつずつ乗り越えていった先の問題として見えてくるのだろう。