半島を出よ

村上龍『半島を出よ』上、下、幻冬舎、2005

ごく近い将来、不況とインフレで経済破綻に瀕した日本では対外強硬路線が台頭し・・・となると、筋立ての背景としては「愛と幻想のファシズム」と同じ。今度は日本を襲う外からのショックが北朝鮮の特殊部隊になった、という話。

突っ込むところはいろいろある。最初9人のコマンドで福岡ドームを占拠し、その後500人を空輸して福岡市を占領するというが、輸送機はいくら旧式の小型機とはいえ、本当にレーダーに映らないのか?さらにその後12万人の特殊部隊が船で博多湾に上陸するというが、なぜその船団を日本が攻撃しないと確信できるのか、仮に上陸できたところで、北朝鮮から継続的に武器や弾薬の補給ができなければ戦えないのだから、やはり日本政府が絶対に攻撃してこないという保証でもなければそんな計画は成立しないだろう。日本政府は重武装の軍隊としての特殊部隊をなぜ警察の特殊部隊で襲撃して自滅するようなことをするのか。

一番気に入らないのは結末。爆薬でシーホークホテルが倒壊して500人の部隊は全滅、12万人の後続部隊は引き返すって、そういうのはアリ?日本は変わらなかったが、福岡と九州はアジア諸国との経済交流と行革で発展・・・って、あまりにご都合主義じゃないの?そもそも福岡市民は、イシハラグループと暴走族を除けば、テロリストの支配に対して何もしなかっただけなのでは?「愛と幻想のファシズム」とは逆の結末になっているが、これは明らかにすべっていると思う。

いろいろ文句をいった後でこういうのは何だが、面白く読めたことは事実。ひさしぶりに小説の世界が夢に出てきた。本の装丁もとてもかっこいいし。何と言うか、微妙な読後感。