ホームレスになった

金子雅臣『ホームレスになった』、ちくま文庫、2001

都庁の労働関係の部局で働く著者が、東京のホームレスの生態を自分の見聞に基づいて描写した本。文庫化される前の単行本は1994年刊行。最初の部分は会社のリストラ物語かと思ったが、リストラされた主人公があっという間にホームレスになっていく、そのあっけなさに驚く。きっかけは何でもいいのだ。職場や家族、友人といった社会の網からこぼれ落ちてしまうとその先にあるのはホームレスへの道。

ホームレスは必ずしも「食うに困っている」とは限らないし、身なりも「自分が気にしなければ」それなりに慣れてしまう。でもいったんホームレスになるとそれ以前の状態に戻ってくることはむずかしい。住所不定の者はまともな職にはつけない。保証人もないので部屋も借りられない。当然健康保険には入っていないので、病気になった時は厳しい。行き倒れの危険とはいつも隣合わせだ。

わたしたちと社会は何本かの糸でつながっているのだが、それが切れてしまえばもはや「いないのと同じ」人間になり、「厄介者」として暮らしていかなければならなくなる。著者によると、行政当局によるホームレスの統計調査はされていないのだという。年間の自殺者は約3万人だというが、おそらく少なくない数の人が自殺もできないままにホームレスとなっているのだろう。著者が「仕事で」ホームレスとかかわっている人なので、筆にあまりウェットなところがないのが好感をもてる本。